雨音だけが響く深夜の書斎。私は手元にある一枚の紙――どこにでもある、ありふれた「給与明細」を静かに見つめていた。 そこに印字された総支給額と、無残に引かれた控除額の羅列。これを見るたびに、私は資本主義というゲームの「残酷なバグ」を痛感せずにはいられない。
読者の皆さんに、一つ簡単な思考実験に付き合ってもらおう。 「1日目に1円玉を貯金し、毎日その額を倍にしていく」という、昔からあるあのゲームだ。
1日目は1円。2日目は2円。3日目は4円……。 最初は子供の遊びにすぎない。しかし、これが14日目を迎えた時、累計額は「16,383円」に達する。お気づきだろうか。我々の給与から毎月無慈悲に天引きされる「国民健康保険料」とほぼ同額だ。 さらに15日目には「32,767円」。保険料の2ヶ月分が、たった1日で吹き飛ぶ計算になる。
そして、このゲームが18日目を迎えた時、累計額は約26万円に達する。 そう、一般的な会社員や自営業者が1ヶ月、血の滲むような思いで働いて手にする「手取り給与」とほぼ同じ金額だ。
ここで思考実験は「壁」にぶち当たる。 この18日目こそが、己の時間を切り売りして稼ぐ労働者(会社員・自営業)の「限界点」なのだ。 どれだけ残業しようが、どれだけ汗水流そうが、足し算の労働力ではこれ以上、日数を進めることはできない。国家のシステムによって、あらかじめそこに天井(リミッター)が設定されているからだ。
■ 富裕層が仕掛ける「初期値のハッキング」
では、資本主義の勝者たる富裕層たちは、どうやってこの限界点を突破しているのか? 答えは極めて冷酷かつシンプルだ。彼らは決して「1日目を1円から」始めない。
彼らは、最初から「2円」「5円」「10円」、あるいは「50円」からこの倍々ゲームをスタートさせる。初期値(ベース)をハックすることで、18日目に到達する金額のケタを強制的に書き換えているのだ。 そして何より重要なのは、彼らはこのゲームを「タンス預金(現金)」という腐りゆくフォーマットでは絶対に行わない。彼らは初期値を、MRFや短期定期預金、あるいは特定口座の投資信託といった「増殖機能を持つクラウド」に配置する。
1円から始める労働者は、永遠に18日目の天井で喘ぎ続ける。 初期値をハックし、投資信託というシステムに乗せた富裕層だけが、20日目、30日目の天文学的な数字へと到達していく。
■ 迫り来る「3つの周期」を生き残るために
私がなぜ、これほどまでに「投資信託での積立」を急ぎ、そして確実なものにしようとしているのか。 それは、私たちが住むこの国のOS(システム)には、決して逃れられない「破滅と再生の周期」がプログラミングされているからだ。
- 【16年周期】:官僚機構と政治体制の強制リニューアル(政権交代や制度のガラガラポン)。
- 【20年周期】:新紙幣発行による、タンス預金の炙り出しと旧通貨価値の暗黙のリセット。
- 【4年周期】:国際機構の維持・改正による、容赦ないグローバル・ルールの押し付け。
現金(日本円)を握りしめたまま、この巨大なシステムのアップデートの波をまともに喰らえば、我々の資産などひとたまりもない。
だからこそ、私は証券口座という防空壕の中で「投資信託の積立」という定置網を張り巡らせているのだ。 バグだらけの国家OSがどのようにリニューアルされようが、紙幣の顔が誰に変わろうが、世界基準の成長を取り込むインデックス投資の複利だけは、誰にも奪うことができない。
給与明細の「限界点」に気づいた者から、この防空壕へと急げ。 時間は、残酷なまでに限られているのだから。

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